「山水園」は北国特有の情緒ある横手市で、長年続いてきた格式ある料亭である。女王人の高澄江は夫に死別した後、女手一つでこの料亭を切りまわしてきたが、今は破産寸前であった。だが、一人娘の朝美に縁談がおきた。土地の造り酒屋の次男坊英彦で、「山水園」の立て直しの援助もするという条件であった。大伯父をはじめ親戚も大賛成、澄江は急拠東京にいる朝美を呼び戻した。朝美は音楽学校に在学していて、恋人の学生、聴涛和也と一緒に帰って来た。澄江にとって和也の出現はショックだった。澄江は和也を諦めさせようとするが、二人はかえって愛を強く誓いあった。ある日、大伯父は朝美を山奥の温泉宿へ連れ去った。朝美を和也から引き離し、気の静まるのを待って見合させる気だった。この朝美と和也の悲痛な姿に同情したのは「山水園」の板前の健造だった。健造は女主人澄江に対する叶わぬ恋を胸に秘め、四十五歳...
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