立花冴子は母と二人暮しの高校三年生だ。お茶目だがどことなく淋しがりやの冴子は、テニスの選手として国体に出場する程のスポーツマンでもあった。母の戸志子は冴子の亡き父博之とのつかの間の幸福を支えとして、冴子の成長を楽しみにしていた。戸志子は、冴子の配偶者として、船員の坪田弘二を選んだ。冴子も弘二に好意を奇せ、全てが順調に行くかに見えたが、十八年間未亡人の節操をもってゆるがなかった戸志子の心に、弘二の若々しさは、大きな刺激であった。弘二と母の関係を知った冴子の驚きと、絶望は深かった。父の親友、佐上要三に諭されて、漸く家に帰ったものの、冴子は戸志子を責めた。弘二にとっても、戸志子との関係は今更のように悔まれた。弘二の乗る船、甲陽丸の出帆する夜、冴子の部屋に忍びこんだ弘二は、冴子に挑みかかった。一度ははねつけたものの、母と弘二の関係が甦った時、冴子は弘二を受け入れていた。冬になった。母、娘はいがみあったまま、冴子は妊娠した。全てに絶望した戸志子は自から命を断った。一人になった冴子は流産すると、人生観も一変した。高校を卒えた冴子は、要三の家に身を寄せ、要三の甥永谷正人に誘惑されると、男への復讐が、母への供養ともなると逆に媚態を示した。それは真実の愛情を自分で確かめようとするかのようであった。弘二が、ウェディングドレスをみやげに、航海から帰って来た。弘二の寛大な心は冴子に女の感情を呼び戻した。二人だけの結婚式、だが冴子は牧師の言葉を肯定することができなかった。残酷な出来事が冴子には烙印のように残っているのだ。身をひるがえすと、弘二の手を振りきって、冴子は渚を駈けていった。波の中に純白のドレスが残っていた。
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