日本が五大強国の一つして輝いていた大正七年、鹿児島の天保山に生れた谷真人は、海軍軍人の輩出している県立の中学に学んだ。熱烈な海軍志望者牟田口隆夫の影響で真人兵学校を受験、難関を突破したが、当の隆夫は乱視のため海軍を断念せざるを得なかった。夫の妹エダは真人に幼い憧れを抱いていたが、兄の失意を思えばつい素直に愛情を打ちあけられない。真人が猛訓練に明け暮れているとき、やっと立ち直った隆夫は、新しい人生を絵に見出していた。日中戦争がますます拡大、第二次欧州大戦が勃発した昭和十四年、真人は兵学校を卒業、練習艦隊に乗り組んだ。その真人が世界各地の港からよこす便りに、エダは胸をときめかせた。鹿児島湾に艦隊が寄港したとき、天保山で語り合った二人は幸福だった。その後、真人は東京に隆夫を訪ね、夜を徹して語り合った。語りつきず、こんどは隆夫が呉の真人の下宿を訪ねたとき、真...
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