江戸は今や南蛮から帰国した穴田藩の人々の噂でもちきりであった。穴田姫は昔旗本矢佐茂左兵衛に失恋してから南蛮貿易を志し、将軍に献上する不老不死の秘薬を持ち帰ったのであったが、生き残った家来は、三馬と須々喜、穴子の三名であった。姫はその外に世の中のことがすべて見えるというギヤマンの大玉を持っていた。さて帰国すると穴田姫は早速矢佐を通じて秘薬を将軍家へ献上方を申請した。矢佐の隣家、天谷椀右衛門には、一郎という養子があったが、一郎は矢佐の娘千草と恋仲であった。しかし親同志は犬猿ただならぬ仲の悪さで遂に一郎は家出をしてしまった。そこで天谷は矢佐の家へ押しかけ、千草だけは一郎の行方を知っている筈だと談判に及び、矢佐が千草に問い訊しに行っている間に、天谷は間違えて秘薬南蛮糖を食べてしまう。それと知らぬ矢佐はすりかえられた碁石を献上したので、将軍はすっかり立腹、矢佐父娘は追放、穴田姫及びその家臣たちは捕吏に追われる身となった。若返った天谷は、旗本一同を御前試合のための猛稽古でくたくたにし、矢佐は何とかして天谷を捕えて身の潔白の証しを立てようとし、千草は父を助けようとしてかえって旗本近藤登之助に追われ、一郎のために助けられる。そうした騒ぎの中へ穴田姫の一行が捕吏に追われて加わり、騒ぎはいよいよ大きくなったはずみに姫の持った大玉が破裂、姫はいうに及ばず、若返った天谷も、白髪の老女、老人にかえる。天谷はそして矢佐に捕えられ、不老不死の秘薬から起った騒ぎはけりがつき千草と一郎もようやく天下晴れて許される恋人同志になった。
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