昭和九年秋、大島組々長大島竜次は、幹部雄造、幼な馴染みの晴子に迎えられて、シャバの土を踏んだ。渡世人の父を持ちながら、医者の道を歩んでいた竜次が、父庄三郎暗殺事件を機に、敢然と父の跡目をついだのだった。二年間の服役中、二度と渡世人稼業に戻るまいと誓った竜次は、自分が殺した斎賀の配下の遺族に何にくれと心をくばった。そんな竜次を今は亡き先代の大幹部の娘晴子が励ましていた。復讐を狙う斎賀一味のいやがらせを、しりめに、竜次は組再建を目ざして土建業に精出していたが、仕事は全て村田組にとられ、竜次の所に来るのは下請けばかりだった。村田組の女親分きよは、竜次の生みの親だったが、縄張り争いから、大島家を飛び出し、村田組を支えていた。親子でありながらゆがみあう二人を、晴子一人が、気をくばっていた。が、「人情と仕事とは別ものだ」ときよは、きっぱり言い切った。間もなく年に一度の鳳まつりが開かれ、竜次は初めて祭りを仕切ることになった。もろ肌ぬいだ竜次の背中に、双竜の刺青が鮮かだった。父と同じ男の紋章が、刻みこまれていた。祭は大成功のうちに終った。こんな時、病身の加賀爪の代人となって村田組に仲裁に入った竜次は、初めて村田組女親分きよと対面した。立派に成人した竜次を見て、きよは初めて母親としての情愛を感じた。懐から出された一通の感謝状、意外にも、村田組のした大仕事は、“大島庄二郎二代目、大島竜次代人、村田きよ殿”となっていた。つまり親子三人で仕上げたことになっているのだ。執念深い斎賀の狙う中、竜次は今日も長ドスを手に渡世人の世界に身をゆだねていった。
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