江戸時代の下積みの人々の日常生活の哀愁をユーモラスで情味の細やかな文章で描いた山本周五郎の三つの短編小説によるオムニバス映画である。三篇とも主人公を演じているのは錦之助。いつもチャンバラのヒーローをやっていた彼が、立ち回り抜きで人のいい善人な人物をユーモラスに温かく演じることも出来ることを示している。 監督は田坂具隆。いつもながらスローテンポのおっとりしたタッチで気持ちのいい作品に仕上げている。 第一話の「ひやめし物語」は、ある藩の下級の武家の四男坊の話である。四男坊だから、どこか武家の家に婿入りでもするか、さもなければ学問か武芸で特別人に秀でて主家に召し抱えられるかしなければ、一生嫁も貰えず兄の家の厄介者として冷飯喰いに甘んじなければならないかもしれない。そういうつらい立場の若者が、しかし、卑屈になってはいかんと自分で自分に言い聞かせるようにして、...
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