江戸時代の下積みの人々の日常生活の哀愁をユーモラスで情味の細やかな文章で描いた山本周五郎の三つの短編小説によるオムニバス映画である。三篇とも主人公を演じているのは錦之助。いつもチャンバラのヒーローをやっていた彼が、立ち回り抜きで人のいい善人な人物をユーモラスに温かく演じることも出来ることを示している。 監督は田坂具隆。いつもながらスローテンポのおっとりしたタッチで気持ちのいい作品に仕上げている。 第一話の「ひやめし物語」は、ある藩の下級の武家の四男坊の話である。四男坊だから、どこか武家の家に婿入りでもするか、さもなければ学問か武芸で特別人に秀でて主家に召し抱えられるかしなければ、一生嫁も貰えず兄の家の厄介者として冷飯喰いに甘んじなければならないかもしれない。そういうつらい立場の若者が、しかし、卑屈になってはいかんと自分で自分に言い聞かせるようにして、学問に励んでいる。その真面目で骨のあるところを家老に見込まれて、思いもかけぬ幸運がやってくるが、嬉しくてたまらなくても、武士たるもの、あまり軽薄に振舞うこともできない。そのなんとも言えない幸福感。 第二話の「おさん」は、性的に感じやすすぎる女の悲劇を扱ったものだ。そういう女の存在がいささか観念的なので、すっきり見事に仕上がっているとは言いがたいが、これは、いわば、男がどこまで女性に優しくあることができるかということを描いたものと言えるだろう。時代劇といえば男は強がる一方と決まっているが、あえてその逆を狙っているところが異色。 第三話の「ちゃん」では、錦之助は、腕がいいがあくまで良心的な仕事をするために貧乏から抜けられない職人を演じている。ある夜、僅かな手間賃を飲んじまって、裏長屋の家の敷居がまたげない。そこで家の外で酔っ払って大声で弁解してると、家の中から女房子供が、言い訳なんかしなくたっていいよ、と朗らかに迎えてくれる。善人だけ出てくる、なんの劇的葛藤もない一場の風俗スケッチのような作品だが、これも実にいい。 第一話の入江若葉の可憐。第二話の三田佳子の哀切。第三話の森光子の愛嬌と、相手役の女優たちは色とりどり。
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