三流週刊紙のトップ屋矢島は、組織などてんから相手にしない一匹オオカミである。彼が信ずるものは、毎朝新聞の記者、野沢の妹、佳代だけであった。殺伐な毎日の生活にあって、二人の家庭だけが、彼の心を癒すものである。それと言うのも、彼が安ッぽい正義感に駆られて、組織暴力の実体を調査しているためだった。暴力団大和会は、表面上は、港湾振興会という看板を掲げていたが、その実体は暴力を振って経済の実権を握っているのであった。そして、矢島にも、さまざまな方向から、組織の圧力がかかって来ていた。ついに、彼は殺人犯に仕立て上げられてしまった。前科者にされたばかりではなく、入所中に、妻の佳代までが、殺害されてしまった。いまや復讐の鬼となった矢島は、ひたすら出所する日を待ち望んでいた。が、そんな彼に、大和会の会長、大和田の死が知らされた。何んらの生きがいを見い出せなくなった矢島は、出所後も生気なく、いたずらに日を送っていた。ある日ヤクザに追われて、真佐子という女が、彼のアパートに逃げ込んで来た。彼女は大和田謙作という名の父親を尋ねて長崎から東京へ出てきたのだ。その男こそ、三年前に死んだと思われていた大和会の会長大和田謙一郎であった。実は、彼は死んだのではなく、世論をあざむくため、全くの黒幕として、組織を裏で操っていたのだった。一方、配下の唐沢たちも、たび重なる失敗によって、会長に殺されることを恐れて、裏切ることを決意し、会長の娘、真佐子を利用しようと考えていた。真佐子を囮に、会長を呼び出し、殺害しようとしたが、逆に会長によって、彼らは殺されてしまった。しかし、真佐子にもたらされた悲劇は、実の父親が暴力団の会長であったばかりではなく、恋人・矢島が復讐のため、自分の父親を、つけ狙う男であったことだ。男の意地を捨て切れぬ矢島は、大和田を射殺した。警察に連行される矢島にむかって、真佐子は叫んだ、“人殺し!”と。
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