折川福実は、夫と14歳の息子を持つ専業主婦。そんな福実が、補充裁判員に選ばれる。 裁かれるのは、夫を亡くし、6歳の息子を一人で育てていた母親、種本千晶。千晶は、重要な会議に出るため、喘息に苦しむ息子を家に放置し出社、さらに、再婚の話が持ち上がっている愛人の家に寄り、帰宅が遅くなったことで、息子を死亡させてしまったとして、保護責任者遺棄致死罪に問われているのだった。 争点は、千晶が自宅を出た時に、息子が大きな発作を起こすかもしれないという危険性を認識していたかどうか、さらに、その後、自宅に電話をしたときに息子が危険な状態にあることを認識していたかどうか、であった。 福実は、裁判を見守りながら、我が身のことを思い返していた。 「息子がいなければ別の人生があったのではないか。」福実がふと口にしたその言葉が息子を傷つけ、小さな綻びが生じてしまう。自分は、果た...
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