▽市川雷蔵主演のこの映画「無宿者」(総天然色)は、八月お盆公開作品で、彼にとっては「長脇差忠臣蔵」以来、二ケ年ぶりに取り組む本格的なやくざものです。脚本は、昨年「暴動」で、シナリオ作家協会選出の、特別賞を受賞した気鋭の新人星川清司が、雷蔵のレパートリーを更に拡げるべく書き下ろしたオリジナル・シナリオです。従ってやくざものと、一口には云っても、雷蔵の、これまでの股旅ものには見られぬ、男の体臭がムンムンするバイタリティに溢れたやくざが主人公で、乾いた、荒いタッチの、スピードに富んだ内容のものです。 ▽物語は、佐渡の金山を背後に控えた、荒海渦巻く日本海に面した一寒村を舞台に、ある日、偶然が結びつけた奇妙な二人づれがフラリ現われたことから始まる。ひとりは、誰に殺されたか判らぬ父の形見の朱鞘のドスを背に、仇を追い求める若いやくざ、他のひとりは、御用金拐帯の汚名を着せられたまま消息を絶った父を探す侍くずれの男で、彼らは、この寒村を根城にして人狩り、殺しなど、悪の限りを尽す、姿見せぬボスこそ、互いの父の生死に関係があることを知って、相協力してその正体を洗う。-が、次第に薄紙を剥ぐごとく事実が明らかになってゆくにつれ、彼らは、互いに仇同志ではないのかという疑心暗鬼に捉らわれ、烈しく対立するが、とうとう意外な事実が現れて、二人の複雑に錯綜した愛憎は最高調に高まるといったもの。 ▽監督は、ベテラン三隅研次が、「剣」以来、四ケ月ぶりにメガホンをとるが、企画の段階から共に構想を練り、演出の冴えは既に定評のあるところから早くも見応えある問題作との期待が大きい。カメラは、一作毎に野心的なキャメラ・ワークを見せる牧浦地志が、照明は古谷賢次、録音、大谷巌、美術、内藤昭といったベテランがそれぞれ担当する。 ▽キャストは、前述のように市川雷蔵が、筋骨逞しい身体に汗の染込んだ着物をまとい、顔もロクロク洗わないようなホコリっぽい若いやくざ一本松といった、およそ彼のイメージに程遠い役柄に扮して、映画俳優としての真価を問うほか、チャキチャキの現代っ子である滝瑛子が、“ジメジメした感じではなく、カラッとした作品に仕上げたい”という三隅監督の要望を担って、初めて時代劇に出演する。また旅鴉の雷蔵に稚ない恋心を寄せる漁師娘に、大映の秘蔵っ子スター坪内ミキ子、雷蔵の一本松と奇妙な友情に結ばれる浪人に、藤巻潤といったピッタリの配役に加えて、雷蔵の父、赤鞘の源七に石山健二郎、腹黒い船問屋の主人に阿部徹、宿場やくざに沢村宗之助、鮫の和四郎と呼ばれる殺し屋とも、用心棒とも知れぬ男に滝恵一と、この作品の内容にふさわしい異色のキャストを揃えている。
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