たった60年余り前、異国の地でこんなにも辛い体験をした日本の女性たちがいたことを、今、どれだけの人が知っているでしょうか。私自身、栗原さんに出逢うまでは何も知りませんでした。なぜ、これほど多くの女性たちが遠い異国の地で見棄てられなければならなかったのか・・・ふとしたきっかけで出逢った孫のような年頃の私に、栗原さんはあの戦争の記憶を静かに語ってくれました。「野や山に死んで棄てられた子供、助けられなかったあの悔しさ。戦争ってなんだろうか・・・今も思えば、腹の煮えくりかえる思いです。」 戦争によって人生を狂わされ、ようやく生き延びたものの、中国残留婦人となってからの栗原さんの人生もまた苦難の日々でした。それでも、人々と出逢い、家族を持ち、中国の大地にしかっかりと根を張って、栗原さんは新しい人生を切り拓いていきます。「何があっても生き抜く」。あの時代を生きた女性たちの命への深い思いに、私の心は強く揺さぶられました。 「あの野原いっぱいに咲いた花。それを見るのが一番楽しかった。うん。きれいだったよ。それが思い出だな」 栗原さんを励ましたのは、あの中国の大地一面に咲き誇る花でした。その美しい大地に散っていった若い命は、どんな明日を夢見ていたのでしょう。「花の夢」に耳を澄ませ、私たちの今を確かめたい。現代を生きる私たちの、遠い記憶への旅が始まります。花は散ってもまた種を落とし、命は続いていくように、栗原さんの記憶は映画となって私たちに引き継がれます。この作品は、それを受け継ぐ私の、そしてひとりひとりの物語でもあるのです。
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